牛配乳達の」]ため、わたしたちの生活気分が次第に乱されてきたのである。
 わたしは数日後、自分の楽しみの一つが無くなったのに気付いた。牧場前の茶店は、農家風のしっかりした家ではあったが、店としては縁台と上り框だけで、ほんの掛茶屋にすぎないし、ふだん、家の人たちは牧場に仕事に出ていて、お婆さんが留守をしてるきりである。わたしはそこで、渋茶をすすりながら、お婆さんからいろんな話を聞くのが、楽しかった。また、そこまでの往き帰り秋草を眺めたり、小さな林をぬけたり、清い川底を覗いたりするのも、楽しかった。一升瓶を下げて歩くことなんか、大したことではない。いえ、手ぶらで、当もなく散歩するなんか、却ってつまらないのだ。小野田さんのおせっかいのため、わたしは楽しみを奪われてしまって、あまり外にも出なくなった。少し遠くにある町の方への用事は、町外れにある矢野さんの別荘の番人が、五日めごとにやって来て、すっかり済ましてくれるのである。
 わたしの不平はそれぐらいだったが、お姉さまの気持ちが少し変ってきた。
 小野田さんのことを、はじめ、お姉さまはただ聞き流されただけだったが、いつのまにか、たいへん気にかけ
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