糸の球をころがして、お姉さまの冬のスェーターなど編んでいらっしゃる。わたしは読書だ。お姉さまにはあまり読書はいけないのだけれど、退屈だろうからって、川井の伯父さまから、セークスピアの翻訳全集と世界童話大系と二揃い、たいへん嵩張った書物が送ってきた。伯父さまが誰かに相談なさった結果だろうと思うけれど、わたしにはそんなもの面白くなく、文学雑誌など買ってきて読むことにしていた。けれども、夜分、電気の光度が弱いので、時折はセークスピヤなど朗読させられることがある。面倒くさい台詞などはとばして、いい加減に読んでゆく。お母さまはいっこう平気でいらっしゃるけれど、お姉さまは熱心に聞いておいでになるとみえて、少し台詞をとばすと、ちょっと、そこんとこ変ね、と突っ込みなさる。わたしは首を縮こめる。
そのようにして、或る晩、「マクベス」を読んでいると、お姉さまが低い声でお言いなさった。
「ちょっと。」
台詞をとばした筈ではなかったがと、お姉さまの方を見ると、お姉さまは、宙に眼を据えて、何かじっと聴き入っておいでになる。いつまでもそのままだ。お母さままで、何か耳を澄していらっしゃるらしい。
お姉さまはふ
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