か[#「何のことだか」は底本では「何のことだが」]、よく分らないんですが……。」
「なに、分らない。」
だいぶ間が途切れた。
「いったい君は、今西を、何だと思ってるのかね。」
「それは、どういう意味ですか。」
「彼女の人物のことさ。」
「ここの社員でしょう。」
「社員は社員だが……。」
少し間を置いて、石村は打っつけるように言い出した。
「まだ確かな証拠はないが、僕の眼に狂いがなければ、あれは日共の党員だ。少くとも党の同調者だ。そしてここで、何等かの情報を得ようとしているのだ。この頃本社では、諸会社の内情調査を主な仕事としてるものだから、それに関連した情報獲得の便宜もあるし、それから猶、警察予備隊だの、保安隊だの、僕の個人的な関係方面のことについても、知りたいニュースがあろうじゃないか。然し、彼女なんかにそう易々と尻尾は掴ませない。その代り、彼女の、いや日共の、尻尾を掴みたいものだ。君がその仕事をやってくれてるものだと、僕は思っていた。まだやっていないのなら、今からでも遅くはない、やってみないか。下らなく思われるような言葉尻だけでも充分だ。君と彼女の間柄なら、わけはないだろう。」
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