士は何とも返事をしませんでした。なにか深く考えこんだらしく、トニイが話しかけても相手になってくれませんでした。

      五

 翌朝、トニイは早く目をさましました。そしてそばの紳士を起こしました。
「僕を家までおくってきてくれる約束だったでしょう」
「だって、昼まなら、一人で帰れるだろう」
「いやだよ。あいつが、化《ば》け者《もの》が、また出てくるかも知れないんだもの」
「ばかだね、お前は」
 それでも、紳士はいっしょについてきてくれました。
 二人は歩いていきました。きれいに晴れた日で、朝日がうつくしく照っていました。紳士は煙草《たばこ》をふかし、トニイは口笛をふいていました。
 トニイはとくいでした。うまくごまかしてしまったのです。紳士をつれて、マリイの家の方へやってきました。
 マリイが住んでるアパートの前まで来ると、紳士はびっくりしたように立ち止まりました。
「お前はここに住んでるのか」
「そうですよ。階段や廊下があぶないんだ、いつあいつが出てくるかわからない。僕の部屋までおくってきて下さいよ」
 せまい階段を三階までのぼって、奥の部屋まで行き、トニイはいきなりその扉を開
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