すきです。けれどその本はもう、絵本や絵いり雑誌ではありません。古本屋からむずかしい本をかりてきて、ひとりで勉強してるのです。
 店の前に人がたちどまると、トニイは本をふせ、顔をあげて、にっこり笑います。その笑顔がたいへんかわいいので、たちどまった人は何か買ってくれます。
 昼まは、日の光がぎらぎらてりつけます。でも、トニイのやたい店は、橄欖樹《かんらんじゅ》のかげのなかにあります。夕方になると、すぐ上の方に、あかるい街灯《がいとう》がともります。
 ある晩、その広場の、トニイのところからちょうど向こう側に、一人の少女が立っていました。そまつな麦わらの帽子にそまつな麻の服をつけていますが、片手にいっぱい花をかかえています。そしていつまでもじっと立っています。
 トニイは気になって、時々その方をながめました。赤や白や紫の花だけがきれいで、少女はさびしそうで棒杭《ぼうぐい》のようです。誰かを待っているのでしょうか。いつまでもじっと立っているつもりでしょうか。
 時々、少女はすこしあるきだします。がまた、うなだれてじっとたちどまります。おおぜいの人々が、目もくれないで通りすぎていきました。
 
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