いて、紳士をつれこみました。
音をきいて、マリイが出てきました。
紳士とマリイとは、顔を見合わして、そこに棒のように立ちすくみました。マリイはふいに、紳士の胸にとびついていきました。
「お父さん、お父さん……生きていらしたのね。お父さん……帰ってきて下すったのね。お父さん……」
マリイは泣きながら、次の部屋にとびこんでいきました。
「お母さん、お父さんがいらしたわ、お父さんが……」
母親はベットからとびおりてきました。父親の方も、その部屋にとびこんでいきました。そして三人で、涙を流しながら抱きあいました。
父親は力つきたように、そこにひざまずいて、ベットに顔をふせました。
「許してくれ。せんだって、おれはマリイの姿を見かけたが、たずねてもこなかった。おれは海賊《かいぞく》の仲間にはいっているんだ。船が難破《なんぱ》して、沈んでしまった時、海賊に救われてから、その仲間にはいってしまったんだ。こちらにやってきた時、ずいぶんお前たちの行方《ゆくえ》をさがしたが、わからなかった。それに、海賊の約束として、家族の者にあってはいけないことになってるんだ。家族の者にあってると、秘密《ひみつ》がもれたり、勇気がくじけたりするからだ。そんなわけで、マリイの姿を見かけても、声もかけなかった。許してくれ、おれが悪いんだ。おれの胸は煮えくり返るようだった。せめての思いに、金の包みを届けておいたが、受取ったろうね。それより外に、どうにもしようがなかった。一度|海賊《かいぞく》の仲間にはいると、それからぬけ出すことは、一同を裏切ることになるもんだから……。ああ、おれはどうしたらいいか。どうしたらいいか……」
彼はむせび泣いていました。母親も泣いていました。マリイも泣いていました。
トニイは顔をそむけて、窓から外をながめていましたが、その時、わざと笑いながら朗らかにいいました。
「とうとう僕の計略にかかりましたね。化《ば》け者《もの》のことなんか、みんなうそですよ。泣いたりなんかしないで、しっかりするんですよ。どうせもう、家族の者にあって、海賊の約束をやぶったんだから、思いきって、ぬけ出したらいいじゃありませんか。汽車にでものって、遠くに逃げちゃうんですね。あとは僕が引き受けます。絵はがき屋のトニイだ。街のトニイだ、海賊なんかごまかすのはわけはありません」
マリイの父親は、涙をふ
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