工達を存分に働かしてやりたいと思っています。みな、立直った気持で、働きたがっております。鋼板は彼等の手に渡してやって下さい。同額の給与を貰っても、遊んでいるより働く方が本望だと、そういう彼等の意気を、私は涙の出るほど嬉しく思います。それで、お願いに出ました。」
 額が晴れやかで、色が黒く肉のしまった、その上原稔の熱情は、山川正太郎にも伝わりました。けれどその時は、山川正太郎はただ次のように答えました。
「よく分りました。もう少し考えた上で善処しましょう。」
 山川正太郎は眉をひそめました。何か陰謀に似た影を感じました。そして、塚本老人に問い訊してみようと思いながら、その、慇懃な態度にくるまった無表情に当面すると、何も言い出しかねました。
 そういうことのために、宴席で斡旋してまわってる塚本老人の姿は、山川正太郎の心を刺戟[#「刺戟」は底本では「剌戟」]しました。そしてますます、決意に似た感慨をそそりました。
 まったくのところ、決意に似た感慨にすぎませんでした。終戦後、民主主義の線に沿う社会革命が、急速に進みつつあるような外観を呈しながら、実は健全に進行するかどうかの見通しは未だつきま
前へ 次へ
全19ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング