を、待ちかまえていた銃手がターンと発射する。
ひらりと翼を裏返して、そのまま巨大な木の葉のように、水面に落ちて横たわるのがある。翼を張ったまま、ゆるやかに旋回して、着水してけろりとしてるのがある。翼を縮め首をすくめ、自身の重みで落下して、水中にもぐってしまうのがある。第一のは即死だ。第二のはびっくり仰天だ。第三のはずるい隠れん坊だ。
そして、傷は、痛みは、流血は、どこにあるのだろう。ターンと響く銃声は、紙鉄砲の音である。空中に展ばされた灰色の翼は、自由自然の姿態である。そして、ひらひらと舞い落ちて水面に横たわったのも、水面に浮んでびっくりしてるのも、ひとかたまりになって水中にもぐってしまったのも、臨機の戯れにすぎない。なめらかな羽毛に蔽われてる彼等は、水中にあっても、空中にあると同じく、軽快自由である。傷は、痛みは、流血は、どこにあるのだろう。
陸上の銃猟で、人は屡々痛ましい光景に接する。撃ち落された鳥の胸から、鮮血がしたたって、下敷の草葉をも染めてることがある。翼を或は足を傷ついて、足で或は翼で、渾身の努力をしながらとびかけり、物蔭を求め、叢を求めて、そこに首をつきこみ、恐怖と
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