ていました。
三
ターコール僧正《そうじょう》のお祈《いの》りで生きあがった人形……活人形《いきにんぎょう》……。
そういううわさで、町はわきかえるようなさわぎでした。そしてその活人形《いきにんぎょう》の踊《おど》りを見ようとおもって、町の人はもとより、近在《きんざい》の人まで、美《うつく》しく着《き》かざって、町のにぎやかな広場に集ってきました。
見物人《けんぶつにん》たちが美《うつく》しく着《き》かざってるのにくらべて、人形使《にんぎょうつかい》の方はひどく粗末《そまつ》ななりでした。コスモはなんのかざりもない色のあせた黒《くろ》い服《ふく》をつけ、まんなかにすりきれたふさ[#「ふさ」に傍点]のついてる大黒帽《だいこくぼう》をかぶり、木靴《きぐつ》をはいていました。コスマは、赤茶《あかちゃ》けた服《ふく》をつけて、古いマンドリンをかかえていました。そして広場の中には、うすいむしろがしいてあるきりでした。
けれども、コスモもコスマもいっしょうけんめいでした。その日にやけた年とった顔《かお》には、いつにない若々《わかわか》しい元気がうかんでいました。彼《かれ》は額《ひたい》に汗《あせ》をにじましながら、つよい調子《ちょうし》でいいました。
「わたくしは、もう人形使《にんぎょうつかい》をやめまして、故郷《こきょう》に帰《かえ》るつもりでおりました。この人形も、もう人様《ひとさま》にお目にかけないつもりでおりました。ところが、ターコール僧正《そうじょう》さまのことをききまして、わたくしどもを長いあいだ養《やしな》ってくれましたこの人形のために、一|度《ど》お祈《いの》りをしていただきたいと考えました。そして僧正《そうじょう》さまにお願《ねが》いいたしました。僧正《そうじょう》さまはすぐに承知《しょうち》してくださいました。わたくしどもの宿《やど》まできてくださいまして、人形のためにお祈《いの》りをしてくださいました。そのお祈《いの》りのさいちゅうに、この人形はいきいきとした顔《かお》になって、わたくしどもに笑《わら》いかけました。わたくしは、わたくしどもは、それをはっきり見ました。ほんとうに笑《わら》いかけました。生きあがりました。わたくしどもは、ただうれし泣《な》きに泣《な》きました。……そして、人様《ひとさま》のおすすめによりまして、この人形を
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