正《そうじょう》は答《こた》えました。
男はうれしそうに、眼《め》をかがやかして、僧正《そうじょう》の顔《かお》をながめていいました。
「ほんとうでございますか」
「お祈《いの》りはわたしの仕事《しごと》だ」と僧正《そうじょう》はほほえんで答《こた》えました。「一|文《もん》もお金をもらわないでも、あなたの宿《やど》まで行って、そのこわれかけた人形のために、お祈《いの》りをしてあげましょう」
二
大きなぼだい樹《じゅ》のあるターコール僧正《そうじょう》の家から、一|里《り》ばかりはなれた町のはずれに、きたない宿屋《やどや》がありました。見すぼらしい年とった男は、そこへ僧正《そうじょう》を案内《あんない》してきました。そしてみちみち、僧正《そうじょう》へ自分の身《み》の上を話しました。
彼《かれ》はコスモといって、女房《にょうぼう》のコスマと二人で、諸国《しょこく》をへめぐっている人形使《にんぎょうつかい》でした。天気のよい日町や村の広場に人をあつめて、コスモが人形を踊《おど》らせ、コスマがマンドリンをひいて、いくらかのお金をもらい、そして方々|旅《たび》をしてあるいているのでした。ところが、そういう生活《せいかつ》は時がたつにつれて、はじめほど面白《おもしろ》いものではなくなってきました。天気は毎日|晴《は》れるものではありませんし、お金はいつももらえるとはきまりません。それに方々の土地《とち》も見つくしてしまいました。だんだん年もとってきました。人形もこわれかけました。いっそ故郷《こきょう》へ帰《かえ》って、そこで百姓《ひゃくしょう》をしてる息子《むすこ》のところで、残《のこ》った生《しょう》がいを送《おく》ろう、とそう二人は相談《そうだん》しました。
ちょうどそのとき、この土地《とち》にたいへんえらい坊《ぼう》さまがいられるということを聞《き》いて、二人は、今まで自分たちを養《やしな》ってくれた人形のため、その坊《ぼう》さまにお祈《いの》りをしていただいて、そして故郷《こきょう》へ帰《かえ》ろうと思ったのでした。
そういう話を、ターコール僧正《そうじょう》はにこにこしながら聞《き》いていました。
宿屋《やどや》について、奥《おく》のせまい室《へや》にはいっていきますと、コスマはぼんやり考えこんでいました。
「僧正《そうじょう》さまがいら
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