の信頼は、やがて次の時代に対する信頼になるのだ。それにしても、怪異を知らない精神は淋しい。怪異はあらゆる夢想のうちの最も具象的な且つ最も飛躍的なものである。君はそういうものを知りたいと願うであろうか。然しもう、それは求めても得られないであろう。自分の精神力で創造し給え。
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 怪異を出さないとすれば、青江の刀は私には不用である。私はそれを坪井君に返した。その時、私も、坪井君もへんに相済まぬような微笑を浮べた。
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――この話、全くの事実なのである。作為はない。其後幾年か、僕は坪井に逢わないし、消息にも接しないが、彼の何となく不健康な弱々しい姿、それでもどことなく根が強そうな姿は、今でも僕の眼に残っている。どうしていることであろうか。君がもし坪井に逢うようなことがあったら、僕に代って宜しく言ってくれ給え。
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底本:「豊島与志雄著作集 第六巻(随筆・評論・他)」未来社
   1967(昭和42)年11月10日第1刷発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2006年4月26日作成
青空文庫作成ファイル:
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