しまったし、魔法使は姿を消してしまったし、王子様やお姫様なども居なくなってしまったし、奇妙な花や虫の美しさも消えてしまったし、つまりお伽噺がなくなったのだ。だからここに、青江の妖刀のお蔭でお化が復活するとしたならば、どんなに素晴らしい効果を来すことだろうか。
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 私の家には十歳から十五歳までの子供たちが三人いた。私は彼等が寝静まった頃を見はからい、その寝室にひそかに忍びこみ、彼等が枕を並べて眠ってる頭の方、床の間に、青江の刀を置いてきた。そして翌朝、昨晩なにか夢をみなかったかと尋ねてみたが、三人ともけろりとして、眼瞼に夢の気配さえない。
 私は彼等の前へ刀を持ってきて、刀にまつわる怪談を話してやった。その話に三人とも熱心に耳を傾け、遂には自ら進んで試してみると云い出した。為すままに任しておいたが、彼等は怪異を見るどころか、夢一つみなかった。
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――幻覚は子供たちをも捕えなかったのだ。彼等は怪談の暗示にもかからなかったのだ。この経験は、子供の精神の健全さと明朗さとを僕に信ぜさした。子供の精神に対するこの信頼を、僕は持ち続けてゆきたいと思う。こ
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