画舫
――近代伝説――
豊島与志雄

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)拳《けん》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)文※[#「王+奇」、第3水準1−88−6]
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 杭州西湖のなかほどに、一隻の画舫が浮んでいました。三月中旬のことで、湖岸の楊柳はもうそろそろ柔かな若葉をつづりかけていましたが、湖の水はまだ冷たく、舟遊びには早い季節でありました。通りかかりの漫遊客が、季節かまわず舟を出すことはよくありました。けれども、いま、この画舫は、そうした旅客のものではなく、名所を廻り歩くこともせず、長い間湖心にただよっていた後、東の岸へ戻って来ました。
 船着場へつきますと、画舫から、陳家の子供である姉弟の瑞華と文※[#「王+奇」、第3水準1−88−6]とが、元気よく飛び出してきました。次に、上海から此処の別荘に来てる張金田が、肥え太った姿を現わしました。そしてあとがちょっととだえました。張金田は振向いて、舟の屋形の下を覗きこみました。
 舟の奥から、静かな声
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