れることがありました。風もなく、地震もないのに、スタンドが揺れました。よほど強力な電波が来たに違いありませんでした。
「ほんとに揺れるのを、わたしははっきり見ました。」
 そういう美津子さんの言葉には、確信の調子がこもっておりました。
 母もわたくしも、もう放っておけない気になりました。どうしたらよかろうかと、相談することもありました。
 そのうちにとうとう、あんなことになってしまいました。
 或る晩、たいへん遅くなって、良吉さんが帰って参りました。わたくしたちはもう寝こんでおりましたが、母が起き上って丹前を引っかけ、戸を開けに出て行きました。良吉さんの帰りは夜更けのこともしばしばでしたし、時には外泊のこともありましたし、わたくしたちはそれに馴れておりました。
 その晩、良吉さんは全く泥酔しておりました。母から聞いたところでは、よろよろとはいって来て、玄関の土間に腰を落ちつけてしまいました。母から援け起されると、案外しっかり立ち上り、両方のポケットから、宝焼酎の瓶詰を一本ずつ、つまり二本取り出して、上り框に並べ、おばさん、どうです、と嬉しそうに笑いました。
 それから二階に上りかけましたが、突然立ち止って、母に言いました。
「美津子のやつ、いろんな下らないことをおばさんに饒舌ってるようですが、一切取り合わないで下さいよ。あいつはばかですから、相手になってやると、増長していけません。これから一切、何事も取り合わないで下さい。頼みますよ。」
 母には何のことだかよく分りませんでしたが、悪いことでもして叱られてるようで、心外だったそうです。
 その晩はそれきりで、良吉さんもすぐに寝こんだ様子でした。それから翌朝、たぶん昨夜の焼酎でしょうが、良吉さんはまた飲み初めて、いつもより遅く、酔った足取りで出かけて行きました。
 それから、正午近い頃、わたくしが昼食の仕度をしておりますと、階段の方に、ただならぬ大きな物音がしました。びっくりして行ってみますと、美津子さんが転げ落ちたらしい恰好で、階段の下に横たわって唸っていました。
 わたくしは声をかけて手を出しましたが、美津子さんは頭を振って、わたくしを睨みつけるようにし、それから、あたりに散らかってる紙を拾い集めました。幾綴じにもなってるたくさんの紙で、例の生い立ちの記の原稿だとあとで分りました。
 美津子さんはひどく酔っていて、
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