らりと垂れて、どこ一つ隠そうとしない、傍若無人の態度は、もはや一の態度ともいえないほどの下劣さだ。それが而も、へんにだだ白い肌で、体躯のことはおれは知らないが、下駄がちんばにへってるところを見ると、恐らく両脚は不揃いで、顔立といったら、口がゆがみ、眼尻がひどく下り、にやりと笑いそうに頬がゆるんでいて、醜悪といってもよい。もしこれが美人であるならば、大理石の彫像とか、木影のひそやかな沐浴姿とか、そういった古代趣味を連想させるものがあるかも知れないが、千代は全くその反対だ。
そういう裸像が、平素の千代と重り合うと、おれは忌わしい気持になるばかりでなく、憎悪をさえも感ずるのだ。白痴だということだけでは許されない。白痴にも白痴美というものがある。だが千代には何等の美も認められない。ただ下劣で醜悪だ。その千代が、彼女自身を無視するのは、それはまあ彼女の勝手だとしても、このおれを無視しているのだ。おればかりではない。店に来る客たちをもそうだし、赤木をもそうだ。日常、赤木の言うことやおれの言うことを、彼女は殆んど耳に入れないかのようである。ただふしぎにも、嘉代さんの言うことにはよく従う。
一見し
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