]子と叔父と三人で客間の方へ坐って、他愛ない世間話などをした。然し会話は往々とぎれ勝ちであった。沈黙が襲ってくると、彼等は急いで何かの話題を探した。三人共皆、心のおけないような安らかさにあり乍ら、沈黙が新らしい何物かを齎すことを恐れたので。
 彼はそういう対座が非常に疲労を来すものであることを感じた。そして沈黙の合間合間に頭を抬げようとする反撥の感情があるのに気附いていた。叔父が強く自分の心を押えつけているような努力の跡をも見た。それが身体に障りはしないかとも気づかった。
「昨日から僅か一日だが、大変長い間のことのように思えるね。」と叔父は思い出したように云った。
「ええ、私も何だか長く滞留なすっていらっしたような気がします。」
「それではこれからまた新らしく京都《あちら》に赴任するつもりで出かけるかね。」
「そうです、何時も新らしい気分で生きてゆくと張り合いがあるような気がしますね。」
「然しやはり生活は何時も同じだからね。」そう云って叔父は苦笑した。
 葉子が帰って来た時、彼はほっと助かったというような気がした。
「今日お帰りなさるの? まあ!」と云って葉子は眼をみはった。
 何に
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