とぎらして、また言葉をついだ。「君の家へ来てから特に僕はそう思うよ、君の生活と僕の生活とが余りにかけ距《へだ》っているというようなことをね。何しろ君の家には若い者ばかりなんだからね。」
「何かお気を悪くなさるようなことはありませんでしたか。」
「君もよほど神経過敏の方だね。」と叔父は笑った。
「でも何だか当《あて》が外《はず》れたというような御不満がありませんでしたか。」
「少しは……そう云えばそんな感じもあるね。」
「あなたは私達の恩人だと思っていますから……。」
「僕はもうそんなことは考えてなんぞ居ないよ。」と突然叔父が遮った。
「いえ、私はいつかほんとに心から叔父さんに感謝したいと思っていました。そしてまた、叔父さんの生活が非常に崇高なもののように思えますので、いつかゆっくり御話がしてみたいと思っていたのです。」
「君達はあれからずっと幸福なんだろうね。」
「ええ。そして私はまたある意味で叔父さんも幸福でしょうと……幸福であらるるようにと祈っていました。」
「幸福と云えば僕はやはり幸福だよ。誤った出立をしなかったと思うからね。」
「ええ。然し……。」と云って彼は口を噤んだ。今の叔
前へ
次へ
全30ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング