拶を口実に、波多野未亡人を訪問すると、乾燥芋の生干しが茶菓子の代りに出た。
「素人作りですけれど、たいそう甘いんですよ。ちょいちょい頂きますので、すっかり干しあがるまでには、半分はなくなってしまうでしょうと、皆さんが仰言いますし、またそれくらい甘くなければ、乾燥にする甲斐がないとも仰言いますが、まったくですよ。これで自信がつきましたから、今日もまた干しているところですよ。」
 未亡人は嬉しそうだった。
 出されたのをつまんでみると、なるほど甘かった。それで山口は、そのような物を茶菓子に出されたことを、自分に対する未亡人の寵遇だと解釈し、これほど甘いものなら自分も拵えてみたいからと媚びて、実地見学を申し出た。
 干し場は二階のバルコニーにあった。薩摩芋をごく柔くふかし、皮をむき、半センチぐらいの厚さに切り、簾の上に並べて、太陽の光に数日間曝すのである。
 山口がそのバルコニーに出ると、丁度、魚住千枝子が、簾の上の干し芋を裏返してるところだった。
「おや、あなたもお手伝いですか。いま、奥さんから、さんざん自慢されたところです。」
 彼女は立ち上って、真面目なお辞儀をした。それで山口は、ちょ
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