をどうかおさげすみ下さいませ。
吉岡先生様[#地から1字上げ]紀美子
御手紙有難うございました。
先生はお酒をあまり沢山おあがり遊ばさないで下さいませ。きっと御体に毒でございますもの。なんだか心配でたまりませぬ。
私は先生にお手紙が書きたくて書きたくて幾度も幾度も書きかけました。けれど、自分のことが恥かしくて、何にも申上げる勇気がなくて、せかれた水が渦を巻くように、胸がくるしく悶えておりました。
私は先生の御事を思い申上げている時が、一番うれしゅうございます。
あとは情けないことばかりでございます。
私の家は、六十坪余りあるのでございましょう。古くてみっともなくて、それを半分ほど使っておりました。すると、このあいだ地震があって、その使わぬところの屋根の瓦が、三百枚ほどすべって落ちました。私はその時それを知りませんでした。音もなにも聞えなかったのでございますもの。私は生活の能力が何もないのに、つまらぬことばかり思ったり考えたりするバカなので、きっと罰があたったのでございましょう。ほんとうに私のようなことでは仕方ございませぬ。も少し生活の基礎をしっかり立てなければなりませ
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