てあげるから、二三日辛抱して待っていてくれと、固く約束をしたから……とそんなことがつけ加えられた。
私は心に一種の圧迫を感じてきたが、それを強いてはねのけるようにしながら、じかに突込んでいった。
「君は一体、本当に光子さんに恋してるのかい?」
松本は少しもたじろがなかった。
「今の所恋してるかどうかは自分にもはっきり分りませんが、愛してることは確かです。」
「愛と恋と違うのかい。」
「私は違うと思っています。」そして彼の眼は輝いてきた。「私が深く光子さんを恋していたのでしたら、一昨日の晩、別々の室になんか寝なかったろうと思うんです。夢中になって取返しのつかないことをしたろうと思います。また、恋しても愛してもいなかったとしたら、別な興味で臨んでいったろうと思います。私はこう思っています。男が女と肉体的に接触する場合は、深い恋か単なる性慾かのどちらかだと。所が私は光子さんに対して、盲目的な深い恋を感じてもいませんし、単に性欲で臨むほど無関心でもいません。何と云ったらいいですか、こう……あの女《ひと》を清くそっとしておきたいというような心持、愛……愛です。私は本当にあの女《ひと》を愛して
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