は一寸考えてから答えた。
「私は昨日から、光子さんの行方が心配でならなかったんです、何だかひどく苛立ってるようでしたから。それで、今朝また河野さんの家へ電話をかけてみました。所がまだ帰っていないとの答えです。それから、晩になっても一度かけてみました。出て来たのは確かに光子さんです。月岡さんおいでですか、と私が云うと、はい、という返辞でしょう。私はすっかり喜んで、松本です、と思わず云ってしまったのです。すると、それからいくら呼んでも返辞がありません。でも確かに光子さんです。何を私に怒ってるんでしょう。」
それから変に皆黙り込んでしまった。私は松本の綺麗にかき上げられてる髪に眼をつけていたが、三四杯酒を干してから、煙草に火をつけながら尋ねてみた。
「一体君、初めからどういう話なんだい。」
松本は苦しそうな表情をしたが、底に頼る所ありげな諦めの態度で、一切のことをまた話してきかした。私は既に光子からと俊子からと二度も聞いてるその話を、新たな興味で聞き初めた。そして実際彼の話は、光子のそれと違って、落着いたしっかりした歩調で進んでいった。最後には、私が草野さんに相談して必ずあなたを救い出し
前へ
次へ
全89ページ中43ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング