で寝入ってしまいましたの。松本さんは早くから起上って、何度も私の室を覗きにいらしたんですって。私ほんとに恥をかかされちゃったんですの。そのまま飛び出してやろうかと、よっぽど思ったんですけれど、無理に我慢していますと、松本さんは変にしおれ返った様子で、私の手をじっと握りしめなさるんです。でも私知らん顔をしてやりましたわ。それから、二人で先生の家へ行こうと仰言るのを、逃げるようにして飛び出してきました。そして一人で外を歩いてるうちに、どうしていいか分らなくなって、やはり先生にお話してみようと思って、お伺いしたんですの。一昨日《おととい》の晩からのことを考えると、何だか夢のような気がしたり、またいろんなことが眼の前に押し寄せてきたりして、自分で自分が分らなくなってしまいますわ。どうしたらいいんでしょう? でも、どうせ私は……。」
光子はぷつりと言葉を切って、突然何かに腹を立てでもしたように、早めにすたすたと歩き出した。私達はそれまでに、池を一周半ばかりしたのだった。
光子の話の中で、殊に私の注意を惹いたことが三つあった。河野さんの口から洩れたという私の妻のことと、河野さんが殆んど毎晩のよ
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