なすって、泊っていってもいいってことになったんですの。それでも、今晩は同じ室に寝ない方がいいと云って……それも私を愛してるからですって!……御自分は別の室に寝ようとなさるんです。そうなりゃ私も意地で、是非帰ると云ったんですけれど、とうとう、私が外の室に寝ることにして、泊ってしまいました。それも下座敷の穢い室で、畳の辺《へり》は擦り切れ、壁に新聞の附録か何かの美人画がはりつけてあって、狭い床の間には古机が一つ横倒しになっています。その中で私は、下宿屋の薄い穢い布団にくるまって、涙が独りでにこぼれてきました。松本さんは私に、今晩はこれで辛抱して下さい、こんな風にするのもあなたを愛してるからで、後で分る時が来ますって、そう仰言ったけれど、そんな愛し方ってあるものでしょうか。私が何もかもうっちゃって縋りついていったのに、帰れと云ったり別の室に寝かしたりして……あら私、何も一緒にどうのっていうんじゃありません、せめて同じ室にくらい寝かしたってよさそうなものですわ。私口惜しくって、夜中過ぎまで震えながら泣いていましたが、もうどうとでもなれと諦めて、それに前の晩一眠りもしなかったんですもの、朝遅くま
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