に困った。
そして、母親が結婚を承知した由を知ると、彼の喜びは更に大きかった。
「そうれみ給え、僕が云った通りだ。天は助くる者を助くるんだ。」
そんな出たらめなことを云って威張っていたが、それでも母親の前に出ると、彼は子供のように顔を真赤にして、眼に一杯涙ぐんでいた。
「お母さん、僕達は二人心を合して孝行します。ほんとに孝行しますよ。安心して下さい。」
その言葉を、母親は自ら涙ぐみながら、中一日おいて私が行くと、くり返しくり返し聞かしてくれた。
彼は縁側に寝そべって、変に憂欝な微笑を頬に浮べていた。
「どうしたんだい。」
「うむ……。」
意味のない返辞をしたきりで、彼はまた地面に眼を落した。赤蟻がそこらを這い廻っていた。然し彼はもう餌をやりもしないで、じっと傍観してるきりだった。それから不意に私の方へ向き直った。
「君、結婚って、嬉しいものだろうかね。」
私は驚いて彼の顔を見つめた。前々日の彼の喜びが大きかっただけに、私は呆気に取られた。
「僕はどうも、変に不安なんだが……。」
そして彼は私の眼をなおじっと見入ってきた。私は眼を外らして答えた。
「だって君は、あんなに自分
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