んで、首をひねって考え込んでいて、あれで何が面白いのかな。亡国の民という感じだね。もしくは、世紀末の遊民……というにも余りに気が利かなさすぎる。全く亡国の遊民だね。日本にもあんな連中がいると思うと、不思議な気がするよ。」
 それが、冗談ではなくて、至極真面目に云ってるのだった。
「だって君も、以前は……。」
「毎日のように通ったさ、だが、面白くないからぴったり止しちゃったじゃないか。」
 そして彼は腹立たしそうに口を噤んだ。
 そういうことは、まだ罪のない方だったが……。
 或る時彼は、画集を集めることに心を向けだした。古本屋をあさり歩いては、面白い画集を買い求めた。然し、乏しい彼の財布では、それは容易なことではなかった。極端に小遣を倹約しても、月に三四冊買えるのが漸くのことだった。そして、金がないところへ面白い画集が見付かると、着物を質屋へ持ってゆくことさえあった。
 そのうちに、やがて彼はまた画集にも興味を失ってしまった。興味がなくなるとさっぱりしたもので、懐中の淋しい折なんか、折角手に入れた画集を持ち出して、古本屋へ売り払うのだった。
「ひどい奴等だ、買った時の半分値にしか引取ろ
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