云った。
「うむ、叱られはしたがね、僕は弁解なんか少しもしなかった。あべこべに向うをやっつけてやったよ。だって君、責任を知らないかって僕に向って云うんだろう。癪に障ったから、責任は立派に知っていますと答えてやった。一時から三時半まで会社の仕事をなまけたとしますと、その二時間半だけ、私は余分に事務を取っていっても宜しいんです、それでもなお事務が残ってるようでしたら、夜中まで居残ってもいいんですし、ビルディングが閉るなら、泊っていってもかまいません……とそんなことを云うと、専務は全く困ったような風をしていたよ。そこで僕はなお進んで、執務時間の改革案なるものを持ち出してやった。一定の時間だけ出勤すれば、それで仕事の能率が上ると思うのは間違いだ。社員はいつでも自分の好きな時に事務を執るようにして、嫌な時には何でも他のことをして遊ぶ、随って、早朝から夜中までの間に勝手な時幾時間勤むればよいと、そういう風になれば最も理想的だ、相互の事務の連絡は書面やなんかでつけることが出来るだろう……とね。」
「そんなことを云って、なおひどく小言をくやしなかったか。」
「いや……実は口に出して云ったわけじゃない。
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