さんのお友達に対する気持ちよりも、更にずっと淡いものであった。ただ、なつかしい叔父さんといったようなものだった。そうでなければ、最初の恥しい思いのすぐ翌日から、あんなに心安く微笑みを返せるわけはない、毎日何の気もなく微笑み合えるわけはない。
楓の葉が紅く色づいて、次にはらはらと散る頃になっても、私はお坊さんと大抵毎日のように顔を合していた。そしてただ微笑み合うだけで、重々しい御門の柱の禁札をも、別に怨めしいと思う心は起らなかった。ただ日曜や雨の日は、お坊さんの姿が見られないので、何だかつまらなかった。
所が十二月の初めから、お坊さんの姿がぱったり見えなくなった。私は学校の帰りなどに、わざわざお寺の前を二三度往き来したこともあった。けれどもお坊さんは姿を見せなかった。私は妙に物悲しくなった。そして最後に逢った日のことを、後ではっきり思い出した。
その日お坊さんは、寒そうに両袖を胸に組んで、石牌の横にしょんぼり立っていた。私が御門を通りかかると、首垂れていた顔を一寸挙げたきり、いつものように微笑みもしないで、またすぐに顔を胸に伏せてしまった。じっと眼をつぶってるようだった。後で考える
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