るので、義姉さんは炬燵に火を入れて下すった。私は炬燵の上に顔を伏せたまま、じっとしていた。訳の分らない涙がしきりに出てきた。何にも考えられなかった。義姉さんは時々立って行かれた。兄さんは何時までも戻って来られなかった。
 電灯がともって、外が薄暗くなりかけた頃、私の心は漸く落付いてきた。御飯の時に私は初めて兄さんの顔を見た。兄さんは非常に興奮していられるようだった。餉台の上にはいつもより多くの御馳走が並んでいた。
「昼飯を御馳走してやるつもりだったが、帰ってしまったので……。」と兄さんは仰言った。
 それを聞いて、私の心は急に晴々しくなった。そして彼のことを兄さんに尋ねようと思ったが、さすがに言葉が口へ出て来なかった。
 その晩、兄さんと義姉さんと私と三人は、炬燵のまわりに集って、兄さんから仔細のことを聞かされた。
 ――兄さんが玄関に出て行かれると、其処に彼が立っていたそうである。兄さんは喫驚されたが、用があるなら云ってほしいと云われた。それでも彼は黙って立っていた。仕方がないので彼を客間へ通した。彼は案内されるまま客間へ通った。そして其処で、彼は凡てをうち明けた。彼は一昨年の秋から
前へ 次へ
全39ページ中25ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング