それによって、例えば性慾というようなものも克服出来るさ。」
彼女はちらと眼を挙げておれを見たが、すぐに視線を膝に落した。両膝をきちっとくっつけている。皮膚のかたい両股であり、陰部には、やけにこわい毛が密生してるのが、わかる。
「性慾の対象は、なんといっても、異性にあるし、これがたいていは、暴力的な形を取ることが多い。本当の愛情が世に稀な所以だ。文学がヒューマニズムを旗印とするからには、どこまでも愛の味方であり、暴力の敵であらねばならぬ。」
彼女はまたおれを見上げた。感激に涙ぐんでるような眼眸だ。おれは突然、憎悪を感じた。彼女の衣服をはいで、彼女の醜い裸体をそこに見た、そのことのために、彼女を憎悪するのだ。再び伏せてる彼女の顔の方へ、手を差し延べて、その※[#「臣+頁」、第4水準2−92−25]をぐいと持ち上げた。
「なんだ、下ばかり向くなよ。顔は真直に向けとくものだ。」
彼女をそこに押し倒してやりたい衝動を、むりに抑えて、眼をそらしながら言った。
「もういい。」
彼女が出てゆくより前に、おれはそこに寝そべり、眼をつぶった。
なにか狂暴なものが、おれの身内に頭をもたげている。そ
前へ
次へ
全22ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング