に初めて、もう電燈や瓦斯が店先や街路についてるのを気付いたのだったが――その光がまた、凡ての硝子器に反映して、店の中がまるできらきらした玻璃宮を現出していた。そして可笑しなことには、私の頭の中がまた、胸の中はもやもやと沸き立ってるにも拘らず、それらの硝子器と同じに、冴え返って澄みきっていた。地震でもして、その玻璃宮がめちゃめちゃに壊れたら、胸の中もすーっとするかも知れない、などと私は馬鹿げたことを考えたが、それは実は馬鹿げたことではなくて、いやに真剣だった。構うものか、やっつけてやれ! そう私は咄嗟に決心してしまった。そしてすぐに実行した。息苦しく鬱積してきた自分の気持に、何かの出口を穿たずには、どうしてもいられなかったのである。
 硝子店と反対の側の正面から、少しわきに寄った所に、薄暗い横町があった。私はその横町にはいっていって、暫くして何気ない風に屈みながら、両手に小石を一つずつ拾い取り、その手を袂の中に忍ばせて、また横町の出口まで戻ってきた。大通りを通る人々のうち、横町の方へ眼を配る者はいなかったし、薄暗い横町の中には、人影も見えなかった。或は私の方を見てる者があったとしても、私
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