気持がふわふわしてきた。立上っていって、店の方へ通ずる硝子戸を開けると、年上の女中が、そこの片隅で針仕事をしていた。
「ハバナの細巻を一本くれないか。」
それを貰って、火をつけながら元の席に戻ってきた。香りの高い煙が、真白な天井へゆるく立昇っていった。
「どうです。」
「当りが出て来ましたね。」
木谷は佐藤に応答しながら、僕の方へじろりと皮肉な眼付を向けた。僕は知らん顔をして、煙の行方を見守っていた。話はとぎれた。コーンコンという象牙球の音、眠そうなそれでも澄んだ数取りの声、明るい静かな広間、その中に凡てがいい気持に落着いていって、ハバナの煙の上から、阿亀の面がにこやかに見下していた。黒い薄い髪、赤い小さな口、小高い狭い額、ふくれ上った両の頬、その頬の真中に、まんまるく深い靨が掘られていた。その靨の穴に見入っていると、ふと、三角形の据りのいい顔全体が、にこっと笑った。おや、と思ってよく見ると、ハバナの煙の向うから、またにこにこっと笑った。
「おい、何を独りで笑ってるんだい。」
木谷に声をかけられて我に返ると、頬に笑いが上ってくるのがはっきり意識された。
「はははは……。」
抵抗
前へ
次へ
全15ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング