阿亀
豊島与志雄

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)阿亀《おかめ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)2[#「2」はローマ数字、1−13−22]
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 電車通りから狭い路地をはいると、すぐ右手に一寸小綺麗な撞球場があった。電車通りに面した表の方は、煙草店になっていて、各国産の袋や缶の雑多な色彩が、棚の上に盛り上っていた。その店から、磨硝子の戸を距てて、撞球台が二つ並んでいる広間となり、奥は障子越しに、家の人達の住居になっていた。
 ゲーム取りの女が二人いた。――客の少ない時はそのうちの年上の方が、客の多い時はお上さんが、煙草店の方に坐っていた。随って、球を撞きながらうまい煙草が吸えた。磨硝子の戸を一寸開いて、上等の葉巻を一本求めても、少しも可笑しくはなかった。随って、客は大抵愛煙家だった。その常連が、勤人とか小店主とか、そういった中年の人達で、長時間遊んでゆく者は少なく、数も多くなく、またふりの客も少ないので、場内はいつも静かだった。
 その静かな
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