機密に属することは固より吾々には分らない。
 熱線と共に来る放射線が恐ろしい。広島の赤十字病院には、当時、X光線用の乾板が鉛のケースに収められて地下室にあったが、それがみな原位置のまま感光していた。
 この放射線は、生きのびた人々をも多数、所謂原爆症で殺した。無傷な人々までが不思議な死に方をした。嘔気、頭痛、下痢、発熱……次で、脱毛、下痢、高熱……次で、粘膜出血、白血球減少……。火傷の痕はみなケロイド状で、皮膚が盛り上ってゴムを塗りつけたようになる。赤十字病院には今もそういう患者がいる。
 或る老婦人は、こういう風に言った。――「広島の明るい面ばかりでなく、暗い面もよく見て下さいよ。」
 意味は二様に取れる。主要な街路にはだいたい小さな人家が立ち並び、公共建物もだいたい整備されているが、まだまだ、市民の中には日々の生活に難渋を極めてる者も多く、孤独無縁な者も多い。それから次に、ケロイド状火傷者がたくさんいる。人目につかない部分だけにある者はまだよいとして、顔や手にそれが大きくある者については、殊に若い娘たちの場合は、なんとも言葉には言えない。あまり外にも出ず、なるべく人目を避けてる人た
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