現象は多くの墓石などにも見られるし、或いは石の表面が剥離してるのもある。前記銀行の石段は雲母が熔解して白ずんだが、人影のところだけ旧態を保った。一瞬の間のことだ。
その黒ずんだ人影は、今もそこに腰掛けて、物思いに沈んでいる。何を考えているのか、などとセンチメンタルなことは言うまい。ただ、その人影を見ていると、こちらの胸に熱い思いが湧き上ってくる。――「もうこんなことはたくさんだ! もうこんな戦争はたくさんだ! 僕の影が、君の影が、多くの人たちの影が、花崗岩の表面に刻印されるようなことは、もう御免だ!」
石の面や壁の面に人の姿が刻印されているのが、当時はいくつも見られて、怪談さえ生れた。現に、ガス会社のタンクには、それを囲む鉄枠の影が、爆心地の方面に濃く刻みつけられている。中央公民館に聚集されている屋根瓦は、いろいろの程度に、表面が溶解して熔岩様を呈している。
原爆炸裂時の熱線が如何に高熱なものであったかは、想像に余りある。長崎の爆弾は更に強力なもので、爆心地付近の屋根瓦の溶解度は、広島のよりも甚しい。広島の比治山には、アメリカの施設による原爆被害調査機関のA・B・C・Cがあるが、
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