、仕事というものだったに違いない。
住宅や家財や業務の便宜などを失って、バラック内に茫然としている諸君の心に、先ず猛然と起ってきたものは、何かを為したいという心、何かを為さずにはいられないという心、即ち働く意志だったであろう。この働くということは、必ずしも食を得るという功利的のものではなくて、もっと深い直接の要求だったに違いない。
人は命を繋ぐためには、食を摂らなければならないことは勿論である。然しながら、食を摂って命を繋ぐということは、何の問題にもならない。地震当時に食物を手に入れることが、罷災者の第一の要求だったには相違なかろうけれど、それはああいう場合の一時の現象で、生きてゆく上の生活の――主要な問題ではない。吾々が空気と食物とで命を繋いでるということは、吾々が地球上に住んでるということと同様に、単なる事実である。大地が吾々に必要だということが、吾々の生活に於て問題でない如く、空気と食物とが吾々に必要だということは、吾々の生活に於て問題ではない。それは根本の原則ではあるけれど、それを考えたとて何にもならない。ただ知ってさえおればよいのである。
生命を繋ぐということと、生きて
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