てるのではありません。それはただ彼女にとっては動き回る口実の一つにすぎません。そしてもう書物を十ページと読むこともないのに、アカデミーの選挙をしています。――彼女は私を保護してやろうという考えを起こしました。そんなことを私が好まないということはあなたもお思いなさるでしょう。そしてもっともたまらないことには、私はただあなたの言葉に従って彼女のところへ行きましたのに、彼女はもう私にたいして勢力をもってると思い込んだのです……。私はその腹癒《はらい》せに、ありのままのことを言ってやりました。彼女はただ一笑に付し去って、平然と私に答え返します。「彼女は本来はよい人……」とあなたは言われますが、まさしく、何か仕事さえしておればそうです。彼女は自分でそれを認めています。もう機械につき砕くべきものがなくなったら、新たな材料をそれに与えるためにどんなことでもするでしょう。――私は二回彼女の家へ行きました。そしてもうこれからは行かないつもりです。二回行っただけであなたにたいする私の従順さを示すに十分です。あなたは私の死滅をお望みにはならないでしょう。私は彼女の家から出て来るときには、気持がくじけ砕けがっ
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