れています。それにまた、彼らの芸術家らのうちにはなんという美の官能があることでしょう! 私はそれに昔はさほど気づきませんでした。あなたは私に物を見ることを教えてくださいました。私の眼はローマの光によって開かれました。あなたの国の文芸復興期の人たちは、私にこの国の人々を理解さしてくれました。ドビュッシーの音、ロダンの像、シュアレスの句は、あなたの国の一五〇〇年代の芸術家らと同じ系統のものです。
それでも、私に不快なものが当地にはあまりないというのではありません。昔私をひどく怒らした広場の市[#「広場の市」に傍点]の旧知を、私はふたたび見出しました。彼らは昔とほとんど変わってはいません。しかし私のほうは悲しいかな、すっかり変わってしまいました。私はもう峻烈《しゅんれつ》な態度をとり得ません。彼らのうちのだれかを苛酷《かこく》に批判したくなるときに、私はみずから言います、「お前にはそんな権利はない、お前は強者だと自信しているが、彼らよりももっとひどいことをしてきたではないか、」と。それからまた、無用なものは何一つ存在していないこと、もっとも下賤《げせん》なものも劇の筋書きのうちに一つの役目
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