とを見てきましたし、哲学者じみてきています。……けれども、うち明けて申しますと――(それがあなたはお望みでしょう、お怒《おこ》りにはならないでしょうね)――実は私は自分の弱点をよく知っています。幾月かたつうちには、かなり馬鹿《ばか》げた女になってしまって、あなたといっしょにいて十分幸福ではなくなるかもしれません。それが私にはつらいのです。なぜなら私は、あなたにたいしてこの上もなく清い愛情をいだいていますから。私はどんなことがあってもこの愛情を曇らしたくありません。」
彼は悲しげに言った。
「まったく、あなたがそんなふうに言われるのは、私の苦しみを和らげるためでしょう。私はあなたの気には入らないのです。私のうちにはあなたの嫌《いや》がられるものがたくさんあるんです。」
「いいえ、けっしてそうではありません。そんなに不平そうな顔をなすってはいけません。あなたはりっぱななつかしい方です。」
「それなら私には訳がわかりません。なぜ私たちは一致することができないのでしょうか。」
「あまり人と違ってるからですわ、二人ともあまり特徴のあるあまり個性的な性質だからですわ。」
「それだから私はあなたを
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