のは、若い思想にとっては健全なことではない。魂はそのために焼きつくされる。何物も時と沈黙とをもってしなければ豊饒《ほうじょう》にはならない。しかるにその時と沈黙とが彼らには欠けていた。それはイタリー人の才能の過多から来る不幸である。過激な早急な行動は一つのアルコールである。それを味わいつけた知能は、つぎにそれなしで済ますことが困難になってくる。そして知能の順当な生長は、永久に無理なものとなる恐れがある。
 クリストフは、この溌溂《はつらつ》たる率直さの苛辣《からつ》な新鮮味を賞美した。そして常に身を危うくすることを恐れ然りとも否とも言わない微妙な才能をもってる、中庸人士[#「中庸人士」に傍点]らの無味乾焼さを、それに対立さしていた。しかしやがて彼は、冷静|慇懃《いんぎん》な知力をもってる後者にも、やはり価値があることを見出した。彼の友人らが送ってる常住の戦闘状態は、人を飽かせやすいものだった。クリストフは自分の義務ででもあるかのように、彼らのことを弁護しにグラチアのところへ行った。時とすると、彼らのことを忘れるために行くこともあった。もちろん彼らは彼に似寄っていた。あまりに似すぎていた
前へ 次へ
全340ページ中49ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング