つが、各派のイタリー青年の上に吹き始めていた。国家主義者、社会主義者、新カトリック主義者、自由理想主義者など、すべて希望と意欲とをまげないイタリー人の上に、世界の主たるローマ市の市民の上に、吹き始めていた。
 最初クリストフは、彼らの勇ましい熱誠と彼を彼らに結びつける共通の反感とを見てとったばかりだった。社交界にたいする蔑視《べっし》の念において、彼らは彼と意見が合わずにはいなかった。彼はグラチアが社交界を好んでるという理由で、それにたいして恨みを含んでいた。が彼らは彼よりもいっそう憎んでいた、社交界の用心深い精神を、無情無感覚を、妥協と道化とを、中途半端な物の言い方を、首鼠《しゅそ》両端の思想を、あらゆる可能のうちの何一つをも選択せずに、中間を巧妙に往来する態度を。彼らは強健な独学者であって、あらゆる材料からでき上がっており、おのれをみがき上げるだけの手段も隙《ひま》もなかったので、生来の粗暴さと荒削りの田舎者[#「田舎者」に傍点]めいたやや辛辣《しんらつ》な調子とを、好んで大袈裟《おおげさ》に現わしていた。彼らは人から聞かれたがっていた。人から攻撃されたがっていた。看過されるよりむ
前へ 次へ
全340ページ中47ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング