の範囲を了解し、主《しゅ》より指定された領分において、主の意志を果たさんと努力する。かくして、耕作と播種《はしゅ》と収穫とを終え、辛《つら》いまた美しい労働を終えたとき、日に照らされた連山の麓《ふもと》に憩《いこ》うの権利を得て、その山々に向かって言う。
「汝らに祝福あれかし! 予は汝らの光明を味わい得ないであろう。しかし汝らの影は予には快い……。」
 そのとき、愛《いと》しき彼女が彼に現われたのだった。彼女は彼の手を取ってくれた。そして死は彼女の身体の垣《かき》を破りながら、彼女の魂を、友の魂のうちに流し込んだ。彼らはいっしょに月日の影の外に出でて、多幸なる山嶺へ到達した。そこには、三人の美の女神のごとく、気高きロンドをなして、過去と現在と未来とが手をつなぎ合っていた。そこでは、和らいだ心は、悲しみと喜びとが生まれ花咲き消え失せるのを、一度にながめやった。そこでは、すべてが調和[#「調和」に傍点]であった……。
 彼はあまり気が急いでいた。すでに終局に達したものと思っていた。しかも彼のあえぐ胸をしめつける万力《まんりき》は、彼の焼けるような頭にぶつかる種々の面影の騒々しい錯乱は、もっ
前へ 次へ
全340ページ中323ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング