。クリストフは穏やかに尋ねた。
「君だったのか。何か忘れ物でもしたのかい。」
 ジョルジュはまごついてつぶやいた。
「ええ。」
「はいりたまえ。」
 クリストフはジョルジュが来る前からすわっていた肱掛椅子《ひじかけいす》のところへ行ってまたすわった。窓ぎわで椅子の背に頭をもたせて、正面の屋根並みや夕映えの空をながめた。ジョルジュには構わなかった。ジョルジュはテーブルの上に物を捜すようなふうをしながら、ひそかにクリストフのほうを見やった。クリストフの顔は静まり返っていた。夕陽《ゆうひ》の反映が頬《ほお》の上部と額の一部とを照らしていた。ジョルジュは物を捜しつづけるようなふうで、隣の室――寝室――へはいっていった。先刻クリストフが手紙をもって閉じこもった室だった。手紙はまだそこに、身体の形が残ってる敷き放しの寝床の上にあった。床《ゆか》の敷物の上には一冊の書物が落ちていた。開かれたままでそのページが一枚|皺《しわ》くちゃになっていた。それを拾い上げてみると、福音書[#「福音書」に傍点]であって、マグダラのマリアと園を守る人との邂逅《かいこう》のところだった。
 彼はまた元の室にもどってき、
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