い》のないことではなかった。クリストフとグラチアとは逆《のぼ》せ上がってしまった。彼らの会合の平和――楽しみにしてる静かな談話や読書や音楽――すべてそのささやかな幸福は、それ以来かき乱されてしまった。
 それでもまれには、この小さな悪者も二人に多少の猶予を与えることがあった。自分の役割に倦《う》み疲れるせいか、子供心にとらわれて他のことを考えるせいかだったろう。(彼はもう自分のほうが勝利だと確信していた。)
 すると、すぐさま二人はその機に乗じた。そういうふうにぬすみ得た時間は、それを最後まで楽しめるかどうかわからなかっただけに、二人にとってはいっそう貴重なものだった。二人はいかに接近し合ってる心地がしたことだろう! どうして二人はいつもそういうふうにしていることができなかったのだろう?……ある日、グラチアみずからその遺憾の念をうち明けた。クリストフは彼女の手を執った。
「そうですね、どうしてでしょうか。」と彼は尋ねた。
「あなたにはよくわかってるじゃありませんか。」と彼女は悲痛な微笑を浮かべて言った。
 クリストフはそれを知っていた。彼女が二人の幸福を息子《むすこ》の犠牲にしてること
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