「困っちまうなあ! だれも私の言うことを真面目にとってはくれません。私はがっかりしてるんです。」
「君が勉強するのを見たら、真面目にとってあげるよ。」
「じゃあすぐにやりましょう。」
「今は隙《ひま》がない。明日にしよう。」
「いえ、明日じゃあまり長すぎます。私は一日でもあなたに軽蔑《けいべつ》されるのを我慢できません。」
「困るなあ。」
「お願いしますから……。」
 クリストフは自分の気弱さを徹笑《ほほえ》みながら、彼をピアノにつかして、音楽の説明をしてやった。いろいろ問いをかけてみた。和声《ハーモニー》のちょっとした問題を解かしてみた。ジョルジュは大して知ってはいなかった。しかしその音楽的本能は多くの無知を補った。クリストフが期待してる和音を名前は知らないでも見つけ出した。そして誤りまでが、その無器用さのうちにも、趣味を求むる心と妙に鋭い感受性とを示していた。彼はクリストフの注意を議論せずには受けいれなかった。そして彼のほうからもち出す怜悧《れいり》な質問は、芸術を口先だけで唱える信仰の文句として受けいれないで、自分自身のために芸術に生きようとする、一つの真摯《しんし》な精神を示し
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