たのである。またあのパスカルやラシーヌは世間に別れを告げたではないか。そして他にももっとも偉大なる人々のいかに多くが、世に合わず迫害せられて孤独な生活を送ったことだろう! モリエールのごとき人の魂の中にも多くの憂苦が潜んでいたではないか。――諸君があれほど愛惜しているナポレオン時代にも、諸君の父祖はみずから幸福だと思いはしなかったようである。そしてナポレオン自身も誤った見解をもってはいなかった。彼は自分の死後に人々がほっと息をつくだろうことを知っていた……。皇帝[#「皇帝」に傍点]の周囲にはいかに思想の沙漠《さばく》が横たわっていたことであるか! それは広漠たる砂原の上に照るアフリカの太陽であった。
クリストフは自分の考えめぐらしてることを少しも口に出さなかった。それとなく匂わせるだけでエマニュエルを怒らせるに足りた。そして彼はもう二度とそれを繰り返さなかった。しかしいかに自分の考えを押えても、エマニュエルは彼がそう考えてることを知っていた。その上クリストフが自分よりも遠くまで見通しておることを朧《おぼ》ろに意識していた。そしてますますいらだつばかりだった。若い人々は、自分の先輩から
前へ
次へ
全340ページ中134ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング