に偉大でさらに幸福であれよ。
予自身は、予の過去の魂に別れを告げる。空《むな》しき脱穀《ぬけがら》のごとくに、その魂を後方に脱ぎ捨てる。人生は死と復活との連続である。クリストフよ、よみがえらんがために死のうではないか。
一九一二年十月
[#地から2字上げ]ロマン・ローラン
[#改ページ]
[#「汝いみじき芸術よ、いかに長き黎明の間……」の楽譜(fig42599_01.png)入る]
[#天から7字下げ](汝いみじき芸術よ、いかに長き黎明の間……)
生は過ぎ去る。肉体と霊魂とは河水のごとく流れ去る。年月は老いたる樹木の胴体に刻み込まれる。形体の世界はことごとく消磨《しょうま》しまた更新する。そして不滅なる音楽よ、ただ汝のみは過ぎ去らない。汝は内心の海である。汝は深き魂である。汝の清澄な眸《ひとみ》には、生の陰鬱《いんうつ》な顔は映らない。汝から遠くに、燃えたてる日、渡れる日、いらだてる日などが、不安に追われ、何物にも定着さるることなく、雲の群れのごとく、逃げ去ってゆく。しかし汝のみは過ぎ去らない。汝は世界の外にある。汝一人で一の世界をなしている。星の輪舞を導く太陽と、引力と
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