は今まで彼女の何度もの手紙にかつて返事をくれたことがなかった。彼女は彼の住所を知らなかったし、彼が生きてるか死んでるかさえも知らなかった……。喜びは来たかと思うと去ってゆく。どうにもしようはない。あきらめるばかりだ。肝要なのは子供が幸福になり愛されるということだった……。
その手紙は晩に着いた。ぐずついてる冬がまたもどってきて雪をもたらしていた。夜通し雪が降った。すでに若葉が出だしてる森の中では、樹木が雪の重みに音をたてて折れていた。あたかも砲戦のようであった。クリストフは燈火もつけずに、燐光《りんこう》性の闇《やみ》の中に、ただ一人室にいて、悲痛な森の音に耳を傾け、木の折れる響きのすることにびくりとした。そして彼自身も、重荷の下に撓《たわ》んで音をたてる樹木に似ていた。彼はみずから言った。
「今や万事終わった。」
夜が過ぎてまた昼となった。この樹木は折れてはしなかった。その新たな一日、それにつづく一夜、それからあとの幾昼夜、この樹木は撓んで音をたてつづけた。しかし折れくじけはしなかった。彼はもうなんら生きる理由をもってはいなかった。しかもなお生きていた。もうなんら闘争の趣旨をもってはいなかった。しかもなお、背骨を折りくじこうとする眼に見えぬ敵と、取っ組み合って争っていた。天使と闘うヤコブに似ていた。彼はその争闘からもう何にも期待してはいなかった。ただ終局をのみ期待していた。そしてなお争闘しつづけた。そしてこう叫んでいた。
「さあ俺《おれ》を打ち倒せ! なぜ俺を打ち倒さないのか?」
日々が過ぎていった。クリストフは戦いから脱して、まったくもぬけの殻《から》となっていた。それでも彼はなおつっ立っていて、出かけて歩き回った。生気の欠けてるおりに強健な種族から支持される人々は幸いである。父や祖先の足が、将《まさ》に崩壊せんとしてるこの息子《むすこ》の身体をささえていた。頑健《がんけん》な父祖の支力が、あたかも馬が騎士の死体を運ぶように、くじけたこの魂を支持していた。
彼は両方に谷を控えた頂上の道を歩いていった。萎縮《いしゅく》した小さな樫《かし》の節くれだった根が匐《は》い回ってる、石のとがった狭い小径《こみち》を降りていった。どこへ行くのかも知らなかった。しかも明瞭《めいりょう》な意志に導かれてるものよりもいっそう確かな歩調だった。彼は眠っていなかった。数
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