けだった。家に一人きりでいるときには、奇怪な危ない仕事を考えついた。さまざまな不思議な苦しみを自分の身体に与えた。
「今のように真面目《まじめ》くさってるあなたを見ては、とてもそんなことは信じられませんね……。」と彼は言った。
「ああもしも、」と彼女は言った、「時によって、自分の室に一人きりでいるときに、私をご覧なすったら!」
「なんですって! 今でもまだ?……」
彼女は笑った。彼女は彼に――話をあちらこちらに移しながら――猟をすることがあるかと尋ねた。彼はないと言い張った。彼女は、あるとき鉄砲で鶫《つぐみ》をうって、命中さしたことがあると言った。彼は憤慨した。
「まあ!」と彼女は言った、「それがどうしましたの?」
「あなたにはいったい心がないんですか。」
「そんなこと知りませんわ。」
「動物だってわれわれと同様に生物《いきもの》だとは、考えないんですか。」
「それはそうですわ。」と彼女は言った。「ちょうどお聞きしたかったことですが、動物に魂があるとあなたは思っておいでになりますの。」
「ええ、そう思っています。」
「牧師はそうでないと言っています。でも私は、動物にも魂があると考えますわ。まず第一に、」としごく真面目に彼女は言い添えた、「自分は前世は動物だったと思っていますの。」
彼は笑いだした。
「笑うことはありませんわ。」と彼女は言った。(が自分も笑っていた。)「子供のときに私が一人で考えてた話のうちには、そのこともはいっていました。私は自分を猫《ねこ》や犬や小鳥や鶏や仔牛《こうし》であると想像してみました。そういう動物の欲望を自分に感じました。その毛や羽を自分にもしばらく生やしてみたい気がしました。もうそうなってる気さえしました。あなたにはそんなことはおわかりになりませんでしょうね。」
「あなたは不思議な動物ですね。けれど、そういうふうに動物との親しみが感じられるのに、どうして動物を害することができるんですか。」
「人はいつでもだれかを害するものですわ。ある者は私を害しますし、私はまた他の者を害します。それが世の掟《おきて》ですもの。私は不平を言いません。世の中ではくよくよしてはいけません。私は好んで自分自身をも害することがあります。」
「自分自身を?」
「自分自身をです。このとおり、ある日私は金鎚《かなづち》で、この手に釘《くぎ》を打ち込みました。」
「
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