きもしないで真蒼《まっさお》になって、数秒間震えていた。それから眼の曇りが消えて、自分の前に、大鏡の中に、こちらをながめてる「女の友」の姿が見えた。……女の友? それはいったいだれか? 彼には何にもわからなかった。彼女が自分の友であり、自分は彼女を知っている、ということだけしかわからなかった。そして、眼を彼女の眼に定め、壁にもたれながら、彼はなお震えつづけた。彼女は微笑《ほほえ》んでいた。彼女の顔や身体の格好も、彼女の眼の色合いも、また彼女の背が高いか低いか、あるいはどんな服装をしてるか、そんなことは目につかなかった。彼はただ一つのことを見てとった。彼女の同情深い微笑のけ高い温良さを。
 そしてその微笑が突然クリストフのうちに、ごく幼いころの消え去った思い出を呼び起こした。……六、七歳のころのことで、学校に通っていて、いつも悲しい目に会い、自分より年上の強い仲間から辱《はずかし》められなぐられ、皆からあざけられ、また教師からは不当な罰を受けさせられた。他の者が皆遊び戯れてるのに、自分は一人ぽっちで片隅《かたすみ》にうずくまって、低く泣いていた。すると、他の者といっしょに遊んでいない一人
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