を占め、脚台に両足をのせ、編み物を手にして、指先を動かしながらも、じっと思いにふけった。そばには愛読書を一冊置いていた。たいていそれは、イギリスの小説の翻訳である赤表紙の粗末な書物だった。彼女はほんの少ししか読まなくて、日に一章がせいぜいだった。それで膝《ひざ》の上の書物は、長い間同じページが開かれてるままだったし、てんで開かれていないことさえあった。彼女は読まない先からそれを知っていた、それをぼんやり想像していた。それでディケンズやサッカレーの長い小説は、読むに数週間かかったが、彼女はそれを数年間夢想してるのだった。それらの小説はしみじみとした情愛で彼女を包み込んでいた。早急に濫読する現今の人々は、いい書物をゆっくり味わうときにそれから輝き出す霊妙な力を、もはや知り得ないのである。アルノー夫人は、それら小説中の人物の生活が自分の生活と同じく現実であることを、少しも疑わなかった。彼女が自分の一身をささげたく思うような人物もあった。母親と乙女《おとめ》との心をそなえてひそかに恋に燃えている、嫉《ねた》み深いまたやさしいキャスルウッド夫人は、彼女にとっては姉妹のように思われた。小さなドンビ
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